発声練習をある程度積んだら、次は是非歌手の歌い方を分析して、その通りに真似してみましょう。上手い歌手の真似をするというのは、歌唱技術を身につける上で重要になります。ここでは、歌手の歌い方を真似する上で、考慮すべき要素について触れていきます。歌い方を見る上では、パフォーマンス(視覚的要素)も大事ですが、ここでは声のみに焦点を絞ります。

2種類に分けられる歌い方

  1. 声の作り方
  2. 歌の奏で方

1. 声の作り方

声という楽器は、声帯の閉鎖加減、共鳴腔の使い方、息の強さを変えることで音色を変える事ができます。歌手や歌のジャンルによって、声そのものの作り方が違います。これを聞き分ける事ができ、その通りに真似できるようになると、歌えるジャンルの幅がグンと広がることでしょう。

2. 歌の奏で方

音程の付け方、フレージング、強弱の付け方、音の切り方、ブレス、ビブラートなど、音楽的要素がここに詰まっています。歌手やジャンルによって奏で方が違います。過去に何かしら音楽をやっていた方は、こちらの分野は有利となります。特に音楽の三大要素と呼ばれる、メロディー、リズム、ハーモニー(ハモリ)のなどは、音楽の耳が必要になります。日頃から音感を鍛えていきましょう。

それぞれの項目について、もう少し詳しく掘り下げてみます。

声の作り方の要素

  1. 息の強さ
  2. 声帯の閉鎖加減
  3. 声区
  4. 喉の開き具合
  5. 鼻腔を使っているかどうか
  6. 母音の開き具合

1. 息の強さ

お腹で息をどれくらいの強さで吐くかどうかです。通常、息の量が少なければ小さい声になりますし、息の量が多ければ大きい声になります。あまりにも息の量が多いと、声が割れてしまいます。

2. 声帯の閉鎖加減

声帯の閉じ加減で声の密度が変わります。声帯が完全に開いていれば声にすらなりませんし、完全閉鎖すると息が止まります。少し閉じれば息漏れした繊細な声になり、しっかり閉じれば鋭く響いた声になります。

3. 声区

声区には、低い順にボーカルフライ、地声、裏声、ホイッスルの4種類があります。特に歌手が質の良いミドルボイス(ミックスボイス)を発声できる場合は、地声なのか裏声なのかが全く判別できないといった事が起こります。ここばかりは聴くのが本当に難しい所なのですが、そもそも換声点(声区の切り替えポイント)は人によって違う事ですし、自分なりに声区を変えて歌って良い部分でもあります。

4. 喉の開き具合

舌根を下げ、軟口蓋を上げる行為を、喉を開くと言います。口の奥にある共鳴スペース(咽頭)で、声のふくらみ具合が決まります。喉を開き、この共鳴スペースを大きく取ることで、オペラのようなふくらみのある声になりますし、逆にこの共鳴スペースを小さくすると、平たく潰れたような声になります。

5. 鼻腔を使っているかどうか

鼻の中のスペース(鼻腔)に息を通す事で鼻声になります。基本的な発声では、「な行」、「ま行」、「ん」で鼻に息を通し、それ以外は通しませんが、あえて通して鼻声にして歌う歌手もいます。逆に、「な行」、「ま行」、「ん」で鼻に息を通さないことで、鼻が詰まった声になります。

6. 母音の開き具合

口の中のスペース(口腔)の調整で、母音が作られます。同じ「あいうえお」の母音でも、口の開き具合で声が変わります。口を横に開き気味に「あいうえお」と発声すると、ポップス色が強くなり、口を縦に開き気味に発声すると、クラシック色が強くなります。

歌の奏で方の要素

  1. メロディーの装飾の仕方
  2. ビブラートのかけ方、かけ時
  3. 音の切り方
  4. 抑揚の付け方
  5. 声質の変化
  6. 走るか、タメるか

1. メロディーの装飾の仕方

メロディーに対して忠実に歌っているか、もしくは一瞬別の音を入れてから元の音に戻っているかどうか、もしくはカクカクとメロディーを移動させているか、スライドさせるように移動させているかの違いを聞いてみましょう。人によりメロディーの装飾の仕方に特徴があるかもしれません。

2. ビブラートのかけ方、かけ時

ビブラートの振幅の大きさ、スピード、そしてかけ時をよく聞いてみましょう。人により様々です。最初に声をまっすぐ伸ばした後にビブラートをかける方法もあります。伸ばすフレーズ全部にビブラートをかける人もいれば、まっすぐ伸ばす場所と、ビブラートをかける場所を使い分ける人もいますし、ビブラートを全く使わない人もいます。

3. 音の切り方

音をブツッと切る人、徐々にフェードアウトさせて切る人、ビブラートをかけて切る人、音程を下げて切る人、音程を上げて切る人がいます。例えばポルノグラフィティは伸ばす際に音程を下げて切る事が多いですし、B’zは、伸ばす際に音程を少し下げてから上げて切る事が多いです。

4. 抑揚の付け方

フレーズ単体に対して強弱を付ける場合と、曲全体に対して強弱を付ける場合があります。歌手や、曲によって様々です。小さく歌っている部分と、声量を出している部分をよく聞いてみましょう。

5. 声質の変化

終始同じ声質で歌っているか、声質を変えているかを聞きます。途中でアクセントとして、ボーカルフライや、がなるような声を入れる場合もありますし、繊細な部分で声を息漏れさせることもあります。

6. 走るか、タメるか

本来のリズムに対し、早く歌えば走っていますし、遅れて歌えばタメています。リズム通りに歌っているか、あえてずらして歌っているかを聞いてみましょう。

実践1: 影山ヒロノブさんを真似してみる

CHA-LA HEAD-CHA-LA

ほんの少し喉仏が上がった発声で、平たい声になっています。合わせて口を横に開いて、笑顔で楽しそうに歌っているような感じを受けます。影山ヒロノブさんの最大の特徴は、そのビブラートのかけ方にあります。リズムに合わせて、フレーズの全部にビブラートをかけるように歌っています。例えば、サビ部分「何が起きても気分はヘのヘのカッパ」という部分は、「なあにいがあおおきいてえもお へえのへのかあっ、ぱあ~~」とフレーズの全部にビブラートをかけながら発声しているのがわかります。

実践2: ONE OK ROCKさんを真似してみる

完全感覚Dreamer

喉を開き、咽頭の共鳴を使っているのでふくらんだ声になっています、若干口を縦に開いた発声になっています。特に「ウ」は「ア」寄りの「ウ」に、「イ」を「エ」寄りの「イ」して喉の絞まりを回避しているのがわかります。激しく歌っているのかとおもいきや、ところどころで抜いた声を入れています。なんとも絶妙なバランスですね。サビではガナった声を入れて迫力を出しています。

まとめ

歌手の歌い方をその通りに真似できるようになれば、歌唱力は劇的に向上していきます。なるべく色々なジャンル、色々な歌手の歌声を真似してみましょう。そうすることで、歌手の歌い方の特徴、歌が上手い人に共通する部分などもわかってきます。そして歌い方を分析するためには、洗練された音楽の耳が必要です。ただ音楽を聞き流すのではなく、日頃からよく意識を集中させて歌声を聞いていくことで、多くの情報を掴めるはずです。