今回は、声区の切り替えに焦点を当てて書きます。
歌は「メロディ」というものがあるので、どうしても地声の限界音を超えた音を発声する必要が出てきます。そこで声区を地声から裏声に切り替える作業が発生します。
この声区の切り替えは、歌手にとっては永遠の課題でもあります。
発声基礎の概念
いくら裏声が強くなろうと、地声のパワフルさには到底敵いません。地声というのは、出そうと思えば思いっきり力強く出せる声区です。
ですので、地声を100%で発声すると、裏声に切り替える際に弱くなってしまい、いかにも切り替えたという感じがします。そこで発声基礎ではしばしばこういった概念が用いられます。
これは、地声の高音域に行くにつれ、ちょっと力を抜いて裏声の準備をしていくことにより、声区をスムーズに切り替えるようにするためのモデルです(もちろん裏声を強く出せるように鍛えていく事も大事です)。
地声で粘って、高音域でも100%張り上げてしまうと、いつまでも裏声に切り替える事はできません。また、地声を引っ張ってから裏声に切り替えると、弱々しい声になってしまい、差が目立ちます。なので発声基礎では、地声の張り上げを禁止し、スムーズに裏声に切り替える事を練習していきます。
声区の一本化のメリットとデメリット
発声基礎の段階では、上記のように地声と裏声に大差を無くし、声区を一本化することを目指します。
実はこの作業にはメリットとデメリットがあります。まずメリットから見ていきましょう。
メリット:
- 地声と裏声に差がなくなり、喚声点があまり目立たなくなる
- 地声から裏声まで同じように操れるようになり、音域の壁がなくなる
これだけでも計り知れないメリットを感じます。今まで地声しか出せなかった人にとっては、裏声の音域が追加されるだけでも物凄い効果があります。発声練習は侮れません。
しかし一本化によるデメリットについてはあまり触れられていないので、ここで触れてみます。
デメリット:
- 地声を張り上げないように矯正するため、パワフルさに欠けるようになる
- 一本化こそが正解の発声だと思ってしまう
デメリットとしてはこれらが挙げられます。まず地声高音域で裏声にスムーズに繋げるための準備をするので、地声を100%張り上げるよりも圧倒的にパワフルさに欠けてしまいます。そして、基礎の段階で張り上げの禁止を徹底するので、いけないことだと思ってしまい、一つの発声法に囚われてしまいがちになります。
声区の一本化は、計り知れないメリットを生みますが、そもそも発声を矯正するということは、表現の幅を消してしまうという事でもあるというのを頭に入れておいてください。
切り替えに幅を持たせる
そこで、声区の一本化のデメリットを克服するために、切り替えを早めるか遅めるかの概念を追加します。
もしパワフルに歌い上げたいのであれば、地声を張り上げ、声区の切り替えを遅らせます。しかしその分地声の音域を越えて裏声に切り替えた時に目立ちやすくなります。
逆に優しく歌いたい場合は、早めに喚声点を切り替えます。こうすることで、喚声点が目立たなくなり、また違った表現になります。
切り替えを、早、中、遅の三段階くらいに幅を持たせておけば、それだけバリエーション豊かに曲を歌えるようになる、というわけです。
もちろん声区の一本化というのは基礎としては非常に大事で、これができないと両声区のバランスが崩れてしまいます。ただし、一度基礎ができてしまえば、切り替えをあえて遅らせ、地声を張り上げる事も表現の一つですし、逆に早めて抜き気味に歌うのも表現の一つ、ということも頭に入れておきましょう。
色々な表現方法を試して、歌を楽しんでいただければと思います。