ミドルボイスミックスボイス)は地声なのか裏声なのかという議論について、様々な見解があります。ボイストレーニングをする上で、これらの立場を知っておかないと、人によって言う事が違うので路頭に迷うことになります。ここではそれぞれの見解の解説をした後に、れみぼいすの立場を論じていこうと思います。

地声と裏声にまつわる様々な見解

ミドルボイスの話題に入る前に、実は地声と裏声の定義付けの段階で、様々な見解があります。だいたいは以下の2つの意見に収束されるのではないでしょうか。

  1. 地声は低い声で、換声点を超えると裏声になる
  2. 地声は閉鎖された声で、声が抜けると裏声になる

1. 地声は低い声で、換声点を超えると裏声になる

私たちが普段話す声から、少しずつ声を高くしていくと、ある一定の高さで声が切り替わります。この切替ポイントのことを換声点と言います。1の見解では、換声点を堺に、それより声が低ければ地声、それより声が高ければ裏声と定義されます。換声点より高い声は、声帯が閉じていようが閉じていまいが裏声となります。

2. 地声は閉鎖された声で、声が抜けると裏声になる

私たちが普段話す声は、声帯が閉じてジーンと振動します。この、しっかり閉鎖した声が地声で、閉鎖が弱く声が息漏れすると裏声になるというのが2の見解となります。これは、地声、裏声で分ける人もいれば、表声、裏声の二つで分ける人もいます。この意見の場合、1とは違い声の高さは関係ありません。換声点より高い声を発声した場合、息が漏れていれば裏声、きちんと閉鎖されていれば地声(表声)という分類のされ方になります。

れみぼいすは、1の見解を採用しております。以下、その理由を説明しつつ、今回のテーマであるミドルボイスの核心に迫っていきます。

そもそもなぜ換声点があるのか

本題に入る前に、まずは換声点について理解しておきましょう。実はこのテーマについては、未だにすべてが解明されているわけではなく、色々な仮説が立てられています。例えば声帯削減説、そしてジップアップ説などです。ここでは割愛します。今わかっている事は、換声点より低い声は、声帯のほぼ全域が振動し、換声点を超えると、声帯の先しか振動しなくなるという点です。


2つ図をお見せしましたが、上の方の図は、換声点より低い声を発声した際の声帯の動き、そして下の方の図は、換声点より高い声を発声した際の声帯の動きです。これらは、全く違う動き方をしているという点に着目しましょう。

声区について

次に、換声点を堺に生まれる声区について説明します。声区とは、声の区画の事です。換声点より低い声、そして換声点より高い声は、それぞれ別の声区という事になります。それぞれの声区には名前が付いています。英語の場合は専門的に言うと、換声点より低い声の事を、「modal voice register(モーダルボイスレジスター)」、換声点より高い声の事を「falsetto register(ファルセットレジスター)」と言います。

声を高くしていくと声区が切り替わる

声を高くしていくと、突然声区が切り替わります。この原理は未だに解明されていませんが、私は以下のように仮説を立てています。もちろん間違えている可能性もあります。

  1. 輪状甲状筋の働きにより、声帯が伸展していく
  2. ある一定の高さで声帯靭帯が伸びきる
  3. その後は声帯靭帯より先しか振動しなくなる

低い声を出している時は、声帯はたるんでいるため、声帯の全域が振動します。声を高くしようとすると、輪状甲状筋(声帯を張る筋肉)の働きにより、少しずつ声帯が引っ張られていきます。そして、ある一定の高さに達すると、声帯靭帯が伸びきります。上の図でいう黄色の部分です。それ以降は声帯靭帯の先しか振動しなくなります。

ミドルボイスは地声か裏声か

さて、これまでの話を踏まえた上で、ミドルボイスは地声か裏声かについて考察していきます。

ミドルボイスの発声原理

ミドルボイスとは、ファルセットレジスター(換声点より高い声)にて、声帯を閉鎖させ、振動を得た声のことを言います。ここで注目したい点は、声帯を閉鎖させ、振動を得たとしても、モーダルボイスレジスターでの発声のように、声帯の全域は振動しないという点です。もし仮にファルセットレジスターで声帯を閉鎖することで声帯の全域が振動するようになるのであれば、ミドルボイスさえ発声できれば、それぞれの声区での声帯の振動パターンに違いはなくなり、声は完全に一本の状態になります。そして換声点が消滅することになります。しかし、ミドルボイスを習得したとしても依然として換声点が消えるわけではないので、それはありません。このことから、チェストボイスとミドルボイスでは、同じ芯のある声でも声帯の使われ方が違うという事がわかります。体感的にも、チェストボイスでは声帯が大きく振動する感じがしますが、ミドルボイスでは声帯が細かく振動する感じがします。

地声と裏声の定義付けに戻って

このことを踏まえて、地声と裏声の定義付けで説明した、「2. 地声は閉鎖された声で、声が抜けると裏声になる」という定義付けは、全く違う声区の声をあたかも一緒のものとしてくくってしまうため、不適切だと考えました。この解釈の場合は、モーダルボイスレジスターで地声を出すとチェストボイス、ファルセットレジスターで地声を出すとミドルボイスとなります。両者共にあたかも同じ声のように受け取れ、声区による声帯の振動パターンの違いが軽視されている印象を受けます。「1. 地声は低い声で、換声点を超えると裏声になる」という定義付けであれば、先述したモーダルボイスレジスターとファルセットレジスターをそのまま区別できるため、この場合においては適切だと考えます。れみぼいすでは1を採用しました。

ミドルボイスは地声か裏声か

1の定義付けを採用するのであれば、ミドルボイスは裏声となります。そして、2の定義付けを採用するなら、ミドルボイスは地声となります。れみぼいすでは、1の方が適切だと判断したため、ミドルボイスは裏声だと主張しています。

結論

れみぼいすでは、上記の理由により1の考え方を採用しましたが、2の考え方を採用する方も沢山います。ミドルボイスは地声か裏声かという論争は、実はそもそもの地声と裏声の定義付け方法に関して対立しているのであって、それぞれがイメージするミドルボイスは全く一緒のものです。よって、意見の違いにより混乱が生じるというデメリット以外に、特に意見を対立させる必要性はありません。私なりの結論としては、解釈の違いによりミドルボイスは地声にも裏声にもなりえるので、どちらでもいいと判断します。

1の解釈およびれみぼいすで採用している定義付けをまとめると以下のとおりになります。

地声:

  • チェストボイス(芯のある地声)
  • 息漏れ声・ウィスパーボイス(息漏れした地声)

裏声:

  • ファルセット(息漏れした裏声)
  • ヘッドボイス(息漏れのない裏声)
  • ミドルボイス(芯のある鋭い裏声)

2の解釈での定義付けは、以下の通りになります。

地声:

  • チェストボイス
  • ミドルボイス

裏声:

  • 息漏れ声・ウィスパーボイス
  • ファルセット
  • ヘッドボイス

ボイストレーニングをする上では、話し手がどちらの解釈を採用しているのかをよく考えましょう。そしてどちらの主張にせよ、ミドルボイスといえば同じ声を指しているため、目指す声は同じです。

余談:換声点の起源

換声点ができた起源ですが、一説によると、古き時代に、私たちは天敵や餌のありかを知らせるために声を使っていました。緊急で叫ぶ際に、声が一本だと際限なく高音まで伸びてしまい声を痛めやすいので、ストッパー代わりとして換声点ができたとのことです。よって地声を張り上げた場合、上手く換声点を超える事ができず、声が止まってしまいます。ただしこれはあくまで一説に過ぎません。