外郎売(ういろううり)の口上は、歌舞伎十八番の1つです。
早口言葉が多く含まれているため、声優、俳優、アナウンサー等が、発声練習や滑舌のトレーニング時に使用しています。
まずはYouTubeにある見本を聞いてみてください。
外郎売全文
拙者親方と申すは、御立合の中に 御存知のお方もござりましょうが、お江戸を 立って二十里 上方、 相州小田原、一色町をお過ぎなされて、 青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして円斎と名のりまする。
元朝より大晦日まで、お手に入れまする此の薬は、昔、ちんの国の唐人、外郎という人、わが朝へ来たり、帝へ参内の折から、この薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒づつ、冠のすき間より取出す。
依ってその名を、帝 より「頂透香」と賜る。
即ち文字には、「いただき、すく、におい」と書いて「とうちんこう」と申す。
只今は此の薬、殊の外世上に弘まり、ほうぼうに似看板を出し、イヤ、 小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、平仮名を似って「ういろう」と記せしは親方円斎ばかり、もしやお立合いの内に、熱海か、塔の沢へ湯治にお出なさるるか、又は、伊勢御参宮の折からは、必ず門ちがいなされまするな。
お登りならば右の方、お下りならば左側、八方が八つ棟、おもてが三つ棟玉堂造り、破風には菊に桐のとうの御紋をご赦免あって、系図正しき薬でござる。
イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、ご存知ない方には、正身の胡椒の丸呑、白河夜船、さらば一粒たべかけて、その気味合いをお目にかけましょう。
先づ此の薬、かように一粒舌の上にのせまして、腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬは、胃、心、肺、肝がすこやかに成って、薫風喉より来り、口中微涼を生ずるが如し、魚鳥、きのこ、麺類の喰合せ、その外、万病速効あること神の如し。
さて、この薬、第一の奇妙には、舌のまわることが、銭独楽がはだしで逃げる。
ひょっと舌がまわり出すと、矢も楯もたまらぬじや。
そりゃそりゃそらそりゃ、まわってきたは、廻ってくるは、アワヤ喉、サタラナ舌に、カ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重、開合さわやかに、アカサタナハマヤラワオコソトノホモヨロオ、一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、盆まめ、盆米、盆ごぼう、摘蓼、つみ豆、つみ山椒、書写山の社僧正、粉米のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米のこなまがみ、儒子、緋儒子、儒子、儒珍、親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親かへい子かへい、子かへい親かへい、ふる栗の木の古切口、雨がっぱか、番合羽か、貴様のきゃはんも皮脚絆、我等がきゃはんも皮脚絆、しつかは袴のしっぽころびを、三針はりながにちよと縫うて、ぬうてちょとぶんだせ、かはら撫子、野石竹、のら如来、のら如来、三のら如来に六のら如来、一寸先のお小仏に、おけつまづきやるな、細溝にどじょにょろり、京の生鱈、奈良なま学鰹、ちょと四五貫目、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃつと立ちょ茶立ちょ、青竹茶煎で、お茶ちゃと立ちゃ。
来るは来るは、何が来る。
高野の山のおこけら小僧、狸百匹、箸百ぜん、天目百ぱい、棒八百本、武具、馬具、武具、馬具、三ぶぐばぐ、合せて武具馬具六武具馬具、菊、栗、菊栗、三菊栗、合せて菊栗、六菊栗、麦ごみ麦ごみ、三麦ごみ、合せて麦ごみ 六麦ごみ、あのなげしの長なぎなたは、誰がなげしの長薙刀ぞ、向こうのごまがらは、荏の胡麻がらか、真胡麻がらか、あれこそほんの真胡麻がら、がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれこ法師、ゆんべもこぼして又こぼした、たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、たっぽだっぽ一丁だこ、落ちたら煮てくを、煮ても焼いても喰われぬものは、五徳、鉄きゅう、かな熊どうじに、石熊、石持、虎熊、虎きす、中にも、東寺の羅生門には茨城童子がうで栗五合つかんでおむしゃる、かの頼光のひざ元去らず、鮒、きんかん、椎茸、定めてごたんな、そば切り、そうめん、うどんか、愚鈍な小新発知、小棚の、小下の、小桶に、こ味噌が、こ有るぞ、こ杓子、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、がってんだ、心得たんぼの、川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚を、走って行けば、やいとを摺りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿を七つおきして、早天そうそう、相州小田原とうちんこう、隠れござらぬ貴賎群衆の、花のお江戸の花うゐろう、あれあの花を見て、お心を、おやはらぎやという、産子、這う子に至るまで、此のうゐろうのご評判、ご存知ないとは申されまいまいつぶり、角だせ、棒だせ、ぼうぼうまゆに、うす、杵、すりばちばちばちぐゎらぐゎらぐゎらと、羽目をはずして今日お出での何茂様に、上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、うゐろうは、いらっしゃりませぬか。